卒業前の屋上、セーラー服で先生と……


 また風が吹いた。
 桃香は自身の髪を抑えながら、結人に声をかけた。

「明日は、卒業式……。先生とも、もう、お別れですね」

 想像以上に、低いトーンの声が出てしまった。
 知らぬ内に目頭が熱くなってくる。

 もう、彼に会えない。

 言葉にすると、その現実が一気に差し迫ってきた気がした。

 心臓がぎゅっと苦しくなる。


「へぇ、お前、俺とお別れする気だったの?」


「え? だって仕方ないじゃないですか。卒業したら、もう会え――」

 それ以上、桃香が言葉を口にすることは出来なくなった。
 彼女の身体は後ろへとくずおれる。桃香の長い髪が揺れた。結人の身体が、彼女の身体に覆い被さるようにして重なる。

 空が見えた。

 いつの間にか、桃香の唇は、彼の唇に塞がれている。

 思いがけない出来事に、頭の中が真っ白になる。何が起きたのかが分からない。

 彼からキスされているのだと、理解するのに時間がかかった。

 はじめは、触れ合うだけだった。
 だけど結人の舌で、桃香の唇がむりやり開かれる。
 次第に、彼が彼女の中に入ってくる。
 深くなるにつれ、呼吸がしづらくなっていく。

 柔らかなもの同士が絡み合った。

 煙草の苦味が、口の中に拡がる。

 初めてで――。

 桃香は何も考えられなくなる。

 息を継ぐ、タイミングが、分からない。

 ――本当は短い時間だったのかもしれないが、桃香にはとても長い時間に感じた。


「雨条先生~~? どちらにいらっしゃいますか~~?」

 突然、二人の耳に呼び声が届く。
 屋上に向かう扉が開き、女子生徒数名の声が聴こえた。

(見られると、まずい)

 口付けられたまま、我に返った桃香は、結人の元から離れようとした。だが、彼に身体を抑えられて、身動きがとれない。
 一度だけ唇が離れた時に、彼女は結人に向かって訴える。

「先生……人が、来ちゃ――」

 ぞわりとした感覚が、身体中に走った。
 桃香の首筋を、白い肌を、結人の唇が這う。

 彼が赤いネクタイを緩める姿が、視界に入った。

「集中しろよ」

 抵抗したいのに、できない。
 声が出そうになるのを、桃香は我慢する。誰かに聴かれるのはまずい。


「先生いないんですか~~?」


 女子生徒が、二人の元に近付いてくる気配を感じる。
 なのに先生は、辞めてくれない。
 彼は長い指で、桃香の鎖骨をなぞった後、彼女のセーラー服のリボンをほどいた。
 そうしてまた、口付けられる。

 初めて味わう快楽と、バレたらどうなるのだろうという恐怖が同時に襲う。

 心臓の音が鳴り止まない。


(もう、ダメ……見つかっちゃう……)

 桃香は結人に抗えず、口中を玩ばれたままだ。

 思わずぎゅっと、目を瞑った。

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