卒業前の屋上、セーラー服で先生と……
「屋上、先生いないみたいだよ~~。もういこう!」
女子生徒達が、そう口々にし、足音は遠ざかっていった。
そうして、扉が閉まる音がする。
そこでやっと、桃香は結人から解放された。
桃香の息は、上がっていた。
頬が紅潮しているのが、自分でも分かる。
全身がぐったりとして、力が入りづらくなっていた。
なのに、見上げた結人の表情は、いつもと変わらず余裕があって、桃香は釈然としなかった。
「……先生」
「お前が、もう卒業だって言ったんだろ」
「……卒業式は、明日……ですよ」
なんとか呼吸を整えながら、桃香は結人に抗議する。
「俺は品行方正で通ってて、お前も優等生。誰も俺達の関係に気付かないよ」
彼は、彼女の身体からゆっくりと離れた。
結人は地面座り直し、白衣の内側のポケットにしまっていた海外産の煙草とライターを手に取った。そこから一本手に取り、火をつける。
「あ、悪い。お前の前では吸わないようにしてたのに……」
「……大丈夫、です」
桃香も、時間をかけながら、自身の身体を起こした。
結人が煙草を吸う姿を、彼女はぼんやりしながら見る。つい、彼の唇に目が奪われてしまった。
その視線に気付いたのか、結人は桃香に声をかける。
「なあ、お前、俺のこと好きだろ?」
「え――?」
桃香は目を丸くしてしまう。
ばれていたのかと思うと恥ずかしくなり、俯いてしまった。
彼女がもじもじしていると、結人がさらに言葉を継いだ。
「俺もさ、気になる女に、そう言う目で見られてるの分かってて、我慢するのは大変だったんだ」
そう言われ、桃香は顔を上げる。
(今、結人先生、気になる女って――)
彼と目が合う。
「お前のこと、大事にするよ。卒業してからも、ずっと」
結人から告げられた言葉に、桃香は黙って頷いた。
彼は少し笑んだ後、いつものように煙草の火を地面で消す。
そして彼がまた、そっと彼女に口付けた。
先程までとは違い、ついばむようなキス。
だけどその口付けからは、煙草の香りと、これから先を予感させる大人の味がした。