仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
玲司に肩を抱かれ穂乃果は病院に急いで向かった。玲司の運転する車に乗っている間も手の震えは止まらずギュッと両手を握りしめる。それでも不安で身体が呑み込まれそうだ。単純に怖い。怖くて怖くて泣きそうだ。
車が止まる。赤信号だ。震える穂乃果の手にそっと大きな手が被さった。
「穂乃果、君は一人じゃない。今は僕がいるんだから大丈夫、桃果ちゃんも絶対大丈夫だよ。深く息を吸ってごらん」
ギュッと力強く手を包み込まれ少し震えが小さくなった。穂乃果は玲司に言われたとおり深く息を吸い直す。ゆっくりと深く心を落ち着かせるように。
信号が青に変わり玲司の手が離れた。玲司の温もりが残された手からものすごい寂しさを感じる。もっと震える手に触れていて欲しかった。
「もう少しで病院に着くからね」
「……はい」
東総合病院に着き車を降りた瞬間から穂乃果は病室に向かって走り出した。とにかく無事でいてほしい、いつものようにお姉ちゃんと屈託のない笑顔を見せて欲しい。
「桃果!!!」
勢い良く桃果の個室部屋のドアを開けベットに駆け寄ると酸素マスクをつけ目を閉じている桃果。
「あ、あのっ、桃果は、桃果は大丈夫なんでしょうか!?」
看護師が「今は容態は安定していますよ」と、その言葉を聞いて安心したのか穂乃果の目からはあふれんばかりの涙が流れ落ち、嗚咽してしまうほど泣いて泣いて玲司の腕の中におさめられていた。
「大丈夫、桃果ちゃんは穂乃果に似て強い子だからね」
優しく穂乃果の背中をさする玲司の腕の腕の中にいることがこんなにも心強いなんて。
「高梨さん、先生からお話があるのでもう少ししたら先生と一緒に来ますね」
先生からのお話、そう聞いてまた嫌な予感がした。「はい」と返事をしたがその声を出すのも必死で、今にもガタガタと大きく身体が震えだしそうなほど、先生の話を聞くことが怖い。けれどそれを察してくれたように玲司の腕の力は強まり穂乃果を支えてくれる。看護師が病室を出たあとも玲司は穂乃果から少しも離れず、ずっと穂乃果を身体を抱き寄せていた。倒れないように、震え出さないように、全ての不安要素から穂乃果を守ってくれているように抱き締められ、触れている温もりから不思議と伝わってくる玲司の優しさに穂乃果は初めてすがるように自分から抱き締めてくれている玲司の腕にギュッとしがみついた。
なぜか心がすぅっと落ち着きを取り戻し、すごく安心できたのだ。