仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「おかしいわよね……」


 なんて洗面所の大きな鏡に問いかけてみるがもちろん映っているのは自分なので返事はない。もう慣れた手付きで服を脱ぎ、浴室に入り身体を洗った。未だにたっぷりのお湯には感動してしまいいつも綺麗に身体を洗ってからゆっくり入る。じわじわ身体の芯から温まっていき、カチコチに凝った身体を癒やしてくれる魔法のお湯のようだ。


「慣れ、てきちゃったのかな……」


 玲司に対して。最初はあんなにあった嫌悪感は今はほとんど感じなくなってしまっている。多分この前の桃果が倒れたあたりから確実に自分の心が玲司に対して少し緩やかになってしまっているのだ。


「好き……ではないけど、人として好感度が上がっちゃたのかな……」


 桃果に対する態度も、会社の社員に対する態度もすごく優しい。けれど誰に一番優しいかといったら穂乃果に対してが何故か一番優しいんじゃないかと自分でも思ってしまうほど。


「興味か……」


 玲司が穂乃果に対して興味があると言い出して決まったこの結婚。結婚しているという意識は全く無いが、戸籍上ではすでに夫婦だし、桃果も、会社の社員だって本当の夫婦だと思っている。


「よくわかんないや……」


 ザバァっと湯船から立ち上がり浴室を出た。鏡にうつる自分を見つめてもどこに興味があるのかやっぱり分からない。玲司の考えていることは本当に愛し合った夫婦ではないから、穂乃果には全く分からなかった。


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