仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
トレイにのせこぼさないようゆっくりと階段を登り玲司の部屋のドアを二回ほどノックした。
「穂乃果?」
玲司の不思議がる声が中から聞こえる。
「たまたま起きて喉が乾いたんで紅茶を淹れたんです。玲司さんも飲みますか?」
直にドアが開きメガネ姿の珍しい玲司の姿が目の前に現れ、ドキンと一回、大きく穂乃果の心臓が飛び跳ねた。
「あ、あの……」
「わざわざ淹れてくれたの?」
「いえ、私が飲みたくてついでです!」
否定するために声が少し大きくなる。玲司はクスリと小さく微笑み「入って」と穂乃果を中へ招き入れた。
「失礼します」
玲司の部屋に入るのは初めてじゃない。一度無断で物色したが、いかにも初めて入りましたと装いながら穂乃果は部屋へ入った。
「ここに置きますね」
玲司のデスクの上に紅茶を置き自分の分だけを持って部屋を出ようとした。
「穂乃果、ここで飲んで行きなさい。椅子がないからベットで申し訳ないけど」
「でもお仕事中ですよね? 邪魔になりますので自分の部屋に戻ります」
「仕事はもう終わったからいいんだ。僕が穂乃果と一緒にお茶を飲みたいだけだから。いいよね?」
「ま、まぁお仕事が終わっているのであれば」
玲司は自分のベットに座り「おいで」と穂乃果を手招きする。お茶だけなら、と穂乃果もそっと玲司の隣に三十センチほど距離を開けて腰をおろし紅茶を一口飲んだ。