仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
小さな応接間はなにも変わっていなかった。年季の入った小さなソファーに隣同士で西片と座る。やっと呼吸が整ってきた穂乃果は落ち着いた声で西片に問いかけた。
「西片さん、教えて」
「ん、ああ。まず、高梨印刷は倒産した。それは本当だ。穂乃果だって倒産手続きをしただろう?」
もちろんだ。面倒な書類やらなんやらを書いて手続きをしたのだから。穂乃果はコクンと頷いた。
「俺たち従業員は桐ヶ谷の社長に再就職先を用意してもらったんだ。それが……ここ、桐ヶ谷印刷所だ」
「……は?」
桐ヶ谷印刷所? 西片がなにを言っているのか理解できない。桐ヶ谷って、桐ヶ谷製菓?
「驚くのも無理はない。穂乃果の旦那になった桐ヶ谷製菓の子会社にここはなったんだ。専属の印刷所として今は稼働している。それも全部社長のおかげなんだ」
「ど、ういうこと……?」
なかなか話し出さない西片。穂乃果は驚きと動揺で震える身体から振り絞って掠れた声を出した。
「え、意味がわからないよ西片さん。え? どういうこと?」
「穂乃果」
細かく震える穂乃果の肩に西片はそっと手を置いた。
「黙っていてごめんな」
それだけじゃなにも分からない。本当の事が知りたい。