仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
「穂乃果、いい男と巡り会えてよかったな。きっと親父さんも喜んでると思うよ」
「そうだね……」
自分たちの間に愛なんて無かったはずなのに、玲司のことを思うと胸が苦しくて、痛くて、やっとここ最近感じる心臓のざわめきの理由に気づけた。気づいてしまっては湧き上がる感情は止めることができず、いっきに身体の中から溢れ出しそうだ。溢れる感情は涙にも変わり流れ出す。いつから自分はこんなに泣くようになってしまったんだろう。ずっと、ずっと我慢してきたはずなのに、これからも我慢していくはずだったのに。玲司と出会ってからは自分の感情が抑えきれない。何度涙を流したことだろう。玲司の腕の中が安心できると感じてから、きっともう穂乃果は恋に落ちていた。気づいてしまったのだ。嫌いだったはずの男に恋をしてしまっていた自分に。
「西片さん、帰るね。また来るから」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を服の袖で拭い、立ち上がった。
「あぁ、いつでも来いよ。ここは何も変わってないから」
本当なにも変わっていない。使っていた机も椅子も、機械もなにもかも、以前とかわらない暖かな雰囲気。
「うん、また来る」
よしっと気合を入れてガラガラっと古い扉を開けて工場を出た。むかうは玲司のいる会社。早く玲司の口から本当の事を聞きたい。どうして黙っていたのか、聞きたい。