仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
無言の車内。先に沈黙を破ったのは玲司だった。
「穂乃果、僕は一人で出歩くなと言ってあったよね?」
穏やかな話し方だが声のトーンが低く確実に怒っていると分かるくらい言葉に棘がある。
「ご、ごめんなさい……」
車はすうっと道路の端に止まりハザードランプがカチカチと音を鳴らして光だす。田舎道で車通りは少なく、人も歩いていない。
「なにも、されてない?」
「はい。腕を握られたくらいで玲司さんが来てくれたから……」
「腕を握られたくたいなんかじゃない。僕は穂乃果の指一本にさえ触れてほしくないのに。守りきれなくてごめん、怖い思いをさせてしまってごめん」
玲司はシートベルトをしているにもかかわらず身体をひねり助手席にいる穂乃果をぐっと抱き寄せた。
ずっと我慢していた涙が瞳から溢れ出す。ぼろぼろ涙を流して、わんわん子供のように泣き叫んだ。手を握られただけなのに、怖かった、嫌だった、気持ち悪かった。
泣きすぎて声が枯れた。多分林田のことだけじゃない、工場のことだって、沢山の事が重なって溢れ出してしまったんだと思う。わんわん泣く穂乃果を玲司はなにも言わずにだただた強く抱きしめてくれていた。玲司の腕の中はどうしてこんなにも安心できるのだろう。安心しているからこそ、穂乃果は玲司に何度も涙を見せてしまっているのだ。心がやすらいでくる。玲司の腕の中は穂乃果をたくさん安心させ、泣いてもいいよ、と今まで甘えを知らなかった穂乃果を甘やかしてくれるのだ。