仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
19
滅多に座らない貴族のソファーに腰をおろした。たまにしか座らないソファー。見た目固そうなのに座るとふかふかで座り子こごちは抜群だ。目の前のローテーブルには玲司が淹れてくれた温かい紅茶が用意されている。
「ミルクもいれるか?」
「いえ、大丈夫です」
足を組み直した玲司は「ん」と短く返事をし、自分で淹れたコーヒーを一口喉に流した。穂乃果も一口、泣きすぎてカラカラになった喉を潤すために飲んだ。すっきりとした味わいのストレートティーが異常に美味しく感じる。
「ねぇ穂乃果」
声のトーンで分かる。少し低くて妙に落ち着いた話し方。玲司は怒っている。
「……はい」
「今日以外にも一人で出歩いたことはあるのかな?」
「前にホームセンターに行った時は一人で行きました。よく考えればその時になんだか嫌な視線を感じたんでした。それでそのあと偶然林田さんとお店で会って、でもまさか……」
自分にストーカーがいたなんて普通思わないだろう。でもきっとあの日感じた嫌な視線は林田だったのかもしれない。
はぁ、と玲司は前髪をくしゃりと掴み、深いため息をはいた。
「気づいていたのに黙っていた僕も悪い。でもまだ確証とまではいかなくて変に中途半端に穂乃果に言っても余計に不安がらせてしまうと思ってね。それに君の性格だ。言ったら自分一人で解決しようとするだろう?」