仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


 それは、確かに聞いていたら自分一人で解決しようとしていたかもしれない。玲司は目と目の間にシワをよせて悔しそうな、悲しそうな顔をしていた。


「どうして玲司さんは林田さんが、その、ストーカーだって気づいたんですか?」


 穂乃果自身が全く気づいていなかったのに。


「お義父さんの葬儀のとき、林田のことは呼んでいたかい?」
「いえ、契約を切られた直後だったので関わることもなくなるだろうと思って呼んではいません」
「林田はあの会場にいたんだよ。僕はその時彼が穂乃果に好意を寄せていた男とは知らなかったんだけどね。なんかこう、目が気味悪くてね。なにをするわけでもなくただただ穂乃果を見つめていたんだ。怖いくらいに」


 言葉が出なかった。あの日は確かに色んな人が来てくれ周りを見渡す余裕なんて一欠片もなかったから、気づきもしなかった。林田があの会場にいたことに。ずっと見られていたなんて考えただけでゾッとする。


「僕も不思議に思って思い切って話しかけてみたんだ。こんにちはって、そしたら慌てて帰っていってしまってね。まぁちょっと気味悪いから探偵雇って調べてもらったんだよね」
「そんな時から……だからあんなに一人で出かけるなと言っていたんですね」


 玲司は自分を心配してあんなに口うるさく一人で出かけるなと言っていてくれてたんだと。もし今日みたいなことになり玲司が助けに来てくれていなかったらと考えると恐怖で身体がまた震えだしそうだ。


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