仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
「……分かりました」
「うん、よろしい」
満足気に玲司は頷いた。
「あの、じゃあ教えてもらえませんか?」
「うん、なにから話そうか」
「工場についてです。驚きました。倒産して潰れたはずの工場が動いていたんです。しかも従業員もみんな、みんないました。どうして教えてくれなかったんですか? しかもご自身のお金でって西片さんから聞きました」
これだけはちゃんと聞いてはっきりさせてもらわないと。喉に詰まった小骨のようにずっと、ずっと気になってしまうだろう。
「うん。じゃあ話すけど聞いて呆れないでくれよ」
穂乃果はこくんと頷いた。
「高梨印刷との契約打ち切りは会社の役員たちと一年話し合って決まった結果だったんだ。うちも会社を経営する側だ。コストがおさえられる場所は抑えて、その分新商品の制作費に充てようと話が進んでしまって。社長とは言え僕だけの意見じゃどうにもならなくて……それは西片さんから聞いたかな?」
穂乃果はコクリと頷いた。
「高梨印刷とは僕の父の代から良くしてもらっている印刷会社で、よく父と穂乃果のお義父さんの雑談も聞いていたよ。僕が社長になってからは雑談とまではできなかったけどね。だからどうにかして社員達を納得させたかったんだけど、大手の印刷会社に全て頼めば安くなると、会議の多数決できまってしまったんだ。僕の力不足で申し訳なかった」
「いえ……」
言っていることはよく分かる。会社を経営していくのは大変なことは穂乃果も身を持ってしっているからこそ、強く責めることはできなかった。