仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


 真剣な表情の玲司に嘘はつているとは思えないが、正真正銘玲司と出会ったのは父の葬儀の日が初めてだ。桐ケ谷製菓に行くことがあっても会うのは営業の人だけで社長には会ったことがない。なのに何故、何年も前からと玲司は言ったのだろう。


「僕の父と穂乃果のお義父さんは仲が良かったと言ったろう。お義父さんがうちの会社にきては仕事以外の話で盛り上がって、僕はその時父のそばで、いつか会社を次ぐために仕事を覚えている最中だった。だから二人の話をよく聞いていたんだ」


 懐かしい話をするように玲司は目を細めて優しい顔をする。


「お義父さんは穂乃果話をよくしていたよ。本当にいい子なんだって、でも家族を優先しすぎて自分の気持をなかなか言えていないようなきがするって。妹さんが生まれて穂乃果は更に我慢することが多くなったんじゃないかって、お義父さんは父に相談したり、可愛い可愛いって惚気たり、いつか彼氏をつれてきたらどうしようって話てたよ」
「そうだったんですか……」


 全く知らなかった。玲司の父の代ということは七年以上前の話だろう。穂乃果は高校を卒業して本格的に工場で働き出した時期だ。なんだか知らないところで色々と話されていたと思うと少し恥ずかしい。

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