仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「僕は穂乃果が好きだ」


 ぐっと身体を抱き寄せられ、玲司の腕の中に穂乃果は収まってしまった。どうしてこの男の腕の中はこんなにも穂乃果を無防備にさせるのだろう。穂乃果の瞳から雫が流れ落ちた。ぎゅっと瞑った瞳の端から一粒だけ。


「私が……嫌な女、でもですか?」
「嫌な女? 例えば?」


 頭の上で玲司の優しい声が響く。


「玲司さんのことを恨んでました。だからお金をもぎとってやろうって、弱みでも握って地獄に落としてやろうとかも考えていたんです……」
「あぁ、そんなもの可愛いものだよ」
「そんな怖いこと考える女よりもっと玲司さんには素敵な人が似合います」
「僕は穂乃果がいいんだ。君じゃなきゃ駄目なんだ。君が好きだから必死になって工場も取り戻したんだよ。たくさん我慢してきたぶん、穂乃果にはいつも笑顔でいてほしいんだ。でも僕の前では泣いてほしい、強がらないで、弱いところも全部僕に見せて」


 力強く腰を抱き寄せられぴったりと身体がくっついた。玲司の顔が肩に乗り、耳にダイレクトに声が届く。

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