仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「穂乃果は僕のことが嫌い?」
「それは……」


 嫌いといえばいいはずなのに言葉が出ない。出ることを言葉が嫌がっている。


「あぁ、君のために取り戻した工場、かなりの金額したなぁ。桃果ちゃんの治療費だって。僕は今からとても意地悪なことを言おうとしているんだけどいいかな?」


 嫌な言い方をしているようで全部自分のためだと分かっている。こうやって嫌な言い方をして穂乃果に本音を言いやすいようにしてくれていることも。


「君に拒否権は?」


 正解はない、だ。でも……


「穂乃果、返事は?」


 離れた身体。両肩を掴まれ、腰をかがめて穂乃果の目線に合わせた玲司はじぃっと見つめてくる。正しい答えを求めて。


「……ないです。でもっ」


「僕は穂乃果を愛してる。穂乃果は? 君は僕のことをどう思ってる? 本当の気持ちをちゃんと教えて」


 好き。愛してる。でもその言葉を自分が口に出してもいいのだろうか。


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