仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

「良い条件でしょう。僕と結婚してくれますか? ご両親を失った君はこれから一人でどうしていくのですか?」


 失った、なんて言葉にして言われなくても分かっている。他人に、失う原因の一つとなった張本人に言われるほどの屈辱はない。それに一人、ではない。穂乃果には守るべき人がいる。


「まだ先のことは何も考えてはいませんけど」


 冷たく言い放った。考えたくても考えることが多すぎてどれから考えれば良いのか、今の穂乃果には分からない。とにかく桃果だけは守りたいとまでしかまだ考えられていないのだ。


「なら、僕と結婚しましょう。妹さんの治療費も全て僕が持つ。ドナーさえ見つかれば直に手術してもらおう」
「な、なんで妹のこと……」
「他にも、高梨印刷の従業員の人達の再就職先を手配しますよ」


 玲司がなんで穂乃果の身の回りの困っていることを知っているのか不思議に思ったが、でももうそんなものは一瞬でどうでもよくなってしまった。周りの人たちを、桃果を、従業員を助けてもらえるのなら……穂乃果の脳は色々考えることを拒否するくらい疲れ果てていた。

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