仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

 穂乃果が十六歳、恋に青春に真っ盛りの時に母が亡くなった。四十歳の高齢出産、二ヶ月も早く陣痛がきてしまい予定日よりもかなり早めの出産になった。高リスクな出産のさいにお腹の中の子も母体も命危険状態になったらしい。自分の死に直面しながらも母は赤ちゃんを助けてくださいと力が振り絞れる最後まで口にしていたと父は言っていた。赤ちゃんが産まれ母体は多量出血、胎盤早期剥離が原因で手術は間に合わず母はこの世に新しい命を産んで去っていったのだ。
 沢山泣いた。泣いて、泣いて、涙を枯らして、泣くのをやめた。母が命をかけて産んだ妹の桃果(ももか)を守らなくちゃ。残された父を支えなきゃ。穂乃果は責任感が人一倍強かった。だから穂乃果はもう泣くのをやめた。泣くことをやめて、家族を守ると十六の少女ながらに胸に誓ったのだ。
 母が亡くなっただけでも不幸だったのに、さらに不幸は続いた。桃果の心臓に病気があることが分かったのだ。入退院をくり返しながら、今は安静が第一とのことで桃果はずっと入院をしている。
 勉強に、妹の面倒、家事に会社の手伝い。とてもじゃないけれど穂乃果の青春時代には恋をするような時間が圧倒的に無かったのだ。あっという間に時は過ぎて行った。
 今は出会いも無ければ好きな人もいない。でも、いつかは恋をしてみたい。好きな人と結婚してこの会社を継いで、なんて二十六歳にもなって幸せな未来を夢を見てしまっている。
 いつか心がギュッと苦しくなるくらい人を好きになって、恋をして、愛する人と結婚したい。


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