仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
テレビはもとから全く見ない生活だったので見たいとも思わない、とりあえずダイニングテーブルに座ってぼーっと待つことにした。こんなふうにぼーっとする時間が自分にできるなんて少し前の自分からは想像が出来ない。いつもなら時間ギリギリまで働き、家に帰って晩ごはんの支度で大忙しだ。なのに今はこんなにも時間を持て余すほど、時間があるとなんだが余計に色々思い出しては考えてしまう。
シューッと炊飯器が活発に動き出しお米の炊きあがる匂いがキッチンから漂ってきた。換気扇を回し匂いを遠ざけていると「ただいま」と真後ろから玲司の声。
「わぁっ、おどろかさないでくださいよ!」
換気扇の音で全く気が付かなかった。
「あまりにも君がしかめっつらして立っているものだから少し驚かしたくなってね。おどろいた?」
「……おどろきましたよ」
「なら作戦大成功だ。ここに凄くシワが寄ってたからね。今のうちに伸ばしておこう」
穂乃果は眉間にシワを寄せていたらしく玲司が人差し指でえいえいと伸ばすように擦ってくる。穂乃果は慌てて玲司の指をペシッとはたき落とした。
「なっ、大丈夫ですから。ちょうどご飯が炊けるんで、食べますか?」
「穂乃果が作ってくれたのか?」
「まぁ、自分がお腹空いていたのでついでです。冷蔵庫の中のもの勝手に拝借させていただきました」
「もちろん。しばらく買い物に行かなくてもいいように沢山買い込んでいおいたんだ。朝のハムエッグも美味しかったけど、また穂乃果の作ったご飯が食べれるなんて僕は幸せものだなぁ」
本当に幸せ、と思ってくれているのか玲司は目を細めて優しい顔を穂乃果に向ける。まぁこの顔は嫌いではない。やっぱり好き嫌い関係なく人が喜んでくれている姿は嬉しいものだ。嬉しくてまた作ってあげよう、と思ってしまう。とくんと胸が静かに小さく痛んだ。
「……準備しますね」
ピーピーっとタイミングよくご飯がたけ、すこし痛んだ胸の痛みは一瞬で消え去った。