仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

 いつも通っている馴染みの道さえも今日は雨のせいで更に暗くて闇へと繋がっている暗黒の道に見えてくる。
 東総合病院、桃果が入院していてお世話になっている総合病院だ。穂乃果は勢を緩めること無く病院内に駆け込んでいく。


「高梨です! 電話を頂いた!」


 ハァハァと息を切らし受付に前のめりで乗りかかると、受付の人の申し訳無さそうな、悲しげな表情で、「席でお待ち下さい」という受付の人の顔が頭から離れない。震える手を自分でギュッと握りしめて抑え込もうとするが意味がない。嫌な予感しかしなくてどうしても手が震えてしまう。
 薄暗い院内、フラフラと待合室の椅子に向かう途中、受付の人が大きなバスタオルを持ってきてくれた。傘もささずにびしょ濡れだったことに今気づき、病室を汚してしまうと思いありがたく大きなバスタオルを借りた。フワフワのタオルの柔らかさが無性に泣きそうになる気持を大きくさせる。
 椅子にバスタオルを敷き座ったと同時にスーツの男性二人組に声を掛けられた。


「高梨穂乃果さんでしょうか?」


 二人のうち、年配の男性の方に声をかけられた。


「はい……」
「先程電話した東警察署のものなんですが」
「はい……」
「身元のご確認をしていただきたく――」


 何を今話しかけられているのか分からない。右から左へ言葉が突き抜けて行き何も考えられなかった。多分、信じたくなかったから、聞きたくなかったから、脳が何も考えられなくなるように動いたのかも知れない。


「立てますか?」
「あ、はい……」


 ふらつく身体で警察の人の後を歩く。コツコツと夜の静かな病院に警察の人の革靴の音が響き、ビチャビチャと穂乃果の足元からは水音が響いた。


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