仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
9
皿を洗い終え、階段を登る。なんて話を切り出そう、普通に仕事がしたいです、でいいだろうか。玲司の部屋と扉をコンコンと二回ノックすると「入っていいよ」と玲司の声が聞こえた。
「失礼します」
恐る恐る部屋に入るとスーツ姿のまま玲司は眼鏡をかけてパソコンをカタカタいじっている。眼鏡姿の玲司を見るのは初めてだ。なぜかドキッと胸が弾けた。
(着替えないで、もしかして急ぎの仕事だったのかな?)
「仕事中でしたか? そしたら後ででもいいです」
「いや、大丈夫だよ。穂乃果の相談事の方が大事だからね」
眼鏡を外しコトンとデスクの上に置いた玲司は立ち上がり穂乃果の元へ歩いてくる。
「で、どうしたのかな?」
じぃっと見つめられそこまで大事の相談事ではないのになんだか言葉が詰まった。でも言わないとこの大きな家に閉じ込められたままになってしまう。穂乃果は大きく一回息を吸い口を開いた。
「あ、あの、私もそろそろ働きに出たいのですが、仕事を探してもいいですか? そしたら少しずつでも玲司さんにお金を返せると思いますし」
「……今は、駄目だ。お金も返す必要はないよ」
力強く否定され、穂乃果は頭にカチンときた。なぜ駄目なのかが分からない。もうこの家に一人でいるのは今までフルで働き忙しくしていた穂乃果には耐え難い環境だった。
「どうしてですか? 私をこの家に閉じ込めておく気ですか?」
「そうだと言ったら?」
ジリっと距離を詰められいつの間にか穂乃果は壁に追いやられていた。
「れ、玲司さん?」
いつもの優しい雰囲気とはガラリと変わりキリッと強い瞳に見つめられる。
「羽ばたこうとしている君を籠の中に閉じ込めて、どこにも飛んでいかないようにしたい、って言ったら怖いかな?」
「なっ……」
過保護を超えての独占欲の塊を曝け出した玲司に少し背筋がヒヤリとした。逸らされない瞳、金縛りの力でもあるのか身体が動かせない。