仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

 玲司は締めていたネクタイをシュルリと外し穂乃果の両腕を縛り上げた。


「え……れ、玲司さん?」


 状況を読み込めない穂乃果は驚きと動揺を隠せない。そんなに仕事をしたいと言ったのがまずかったのだろうか。玲司の頭の中がどうなっているのか、何を考えているのか、全く分からない。


「僕の腕の中から勝手にすり抜けて行くことは許さないよ」


 ゾクリと身体の芯まで響く低い声に穂乃果の身体は硬直した。
 穂乃果の両腕を拘束して、何処にも行くなと怖い発言をしているはずなのに穂乃果を見る玲司の瞳は熱い眼差しだ。何処にも行かせたくないと全身で自分の事を求められているようで怖いのに、嬉しい。自分はもうどうかしている。工場が潰れた原因の一つの憎い男のはずなのに、お金の為に結婚したはずなのに、こんなにも求められて嬉しいと思ってしまうなんて。


「れ、玲司さん……んっ、んぅ……」


 背を壁に押し付けられ唇を強く押しつけられた。足の間に玲司は自分の左足を食い込ませ、腕はネクタイで縛られているから逃げられない。四肢の自由を奪われながらの強引なキス。


「僕の側から離れないって誓える?」
「そんなっ、んぅっ、ン……ふ……」


 答える隙を与えないくらい玲司は穂乃果の唇を、舌を食べてしまう勢いで絡ませ、吸ってくる。


「穂乃果、キスの仕方教えただろう? どうするんだったかな?」


 ペロリと唇を舐め、玲司は穂乃果に問いかける。この男、わざと言わせようとしているんじゃ。


「……」


 穂乃果はふいっと顔を逸らすとグイッと頬を掴まれ、また玲司と目が合うよう前を向かされた。熱い眼差しは穂乃果をしっかりと見つめて顔を逸らすことを許さない。


「穂乃果」


 力強い重低音に小さく口が開く。


「……絡ませる」
「うん、そうだね。じゃあちゃんと僕の舌に穂乃果からもしっかりと絡めてくれないと、もっと強く吸ってしまうよ?」
「そんなっ、ン、ん、ん」


 玲司の舌がまた穂乃果の中に入ってくる。舌先で絡んでこいと誘導してくるようだ。穂乃果は観念したかのように自分の舌を玲司の舌に絡めた。頭を掻き抱かれお互いの唾液が泡を立てて混ざり合う。唇の端から溢れ出す透明の液が顎をつたり、それを掬うように玲司の舌が穂乃果の顎を這った。


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