仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。
あらとあらゆるタイプの服をパイプハンガーにズラリと掛けてきたスタッフの人と一緒に何故か玲司も居た。
「な、なんで玲司さん?」
「なんでって妻の服を見に来たんだよ。でも見てるだけだから気にせず穂乃果の好きな服を選んでね」
「は……はぁ」
ニコニコと丸椅子に座って穂乃果を見つめてくる玲司にもう言葉が出てこなかった。スタッフの人は楽しそうに穂乃果に服を当てて「これもお似合いです」「これも雰囲気が変わっていいですね」とお世辞の言葉をずらずら並べてくる。まるで小さい頃に遊んだきせかえ人形にでもなったような気分だ。
「も、もうなんでもいいです……」
この雰囲気に耐えられなかった。じぃっと何も言わずに優しい顔で腕を組んだ玲司が見つめてきているのだ。なんだか気恥ずかしくて早くその場からいなくなりたかった。
結局着回しもきくように三セットほど服を一式購入し、玲司がブラックカードで支払いを済ませてくれ、車に戻るとなんだかドッと疲れが出てきた。
「疲れた?」
クスクス笑いながら玲司は穂乃果の顔を覗き込んでくる。
「つ、疲れましたよ……でもこんなに沢山買って貰ってしまって、すいません」
「いいんだよ。妻の買い物なんだから夫に頼るのは当たり前だろう、それにそれが僕と君の約束なんだから。君は僕の妻、なんだからね」
「は、はぁ……」
まぁ確かにお金面を工面してもらう為の結婚だったけれど、これはこれでなんだか違う気がして申し訳なる。
「それに、妻の買い物をするのがこんなに楽しいものだなんて知らなかったよ。また一緒に買い物しようね」
「いや、もう十分なんでいいです」
「ははっ、つれないなぁ。でもまぁいいや、君らしい」
ゆっくりと車が発信する。なんだろうか。胸がザワザワとくすぐったい。落ち着かない。チラッと横を見ると玲司の満足そうな横顔に胸がドキリと大きく波打った。
(な、なにっ――)
すぐに視線を前に戻したのに鳴り止まない胸の高鳴りにグッと苦しくなって胸を抑えた。サイドミラーに映る自分の顔が少し赤く染まっている。