翠も甘いも噛み分けて
 全てを話し終えたあと、真っ先に幸成が口にしたのはこの言葉だ。そんな風に思われるなんて心外だと、翠は反論する。

「そんな訳ないでしょう? 尊敬していた先輩だったからこそなんか悔しくて、それなら痩せて綺麗になって先輩がもし言い寄ってきたらこっぴどく振ってやるわよ。それこそ百年の恋も冷めるっていうの? そんな感じだよ。恋愛感情じゃないけどね」
「本当に……?」
「本当だよ。ぶっちゃけるけどさ、私、生まれて今日まで誰ともお付き合いとかしたことないし」

 翠の必死な言葉に、幸成はなにか考えている。その間少し沈黙が流れたけれど、その沈黙を破ったのも幸成だった。

「わかった。じゃあ、俺が協力してやる。スイ、俺が今日からお前の彼氏だ。スイは俺のために痩せたことにしろ。で、ダイエットは今日限りで止めろ。付き合うことになったからダイエットの必要もない。ここに毎日通ってスイーツ三昧も約束通りだ。で、もしその先輩とやらが言い寄ってきたら、俺と付き合ってるって言えばいい」

 幸成の言葉に、今度は翠が目を丸くした。コノヒトナニイッテルノと言いたげな眼差しを向けても、幸成は一向に気にしない。

「ってことだから、今日からスイは俺の彼女だな。 ……あ、もうスイじゃないな、彼氏になったんだから翠って呼ぶぞ」

 その言葉に、翠は学生時代の出来事を思い出さずにはいられなかった。

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