翠も甘いも噛み分けて
 翠はとりあえず思いついたお菓子を挙げてみた。この手の質問に『なんでもいい』で答えるのはNGだということは、母が献立を決める時にぼやきを耳にしていただけに、身をもって知っていた。
 最近、マドレーヌやカップケーキ、タルトなどが続いていたので、ビスケットやクッキーが食べたいと思っていた。

「よし、任せとけ。その代わり、古文の宿題頼むな」

 そしてやっぱり交換条件を出されるのだ。

「りょーかーい。てかさ、オーブンで焼いてる時間に宿題やればいい話じゃないの?」
「あのな……その時間に使った調理器具の片づけやら風呂入ったりと、俺もなにかとやることがあるんだよ」

 ああ言えばこう言う幸成に、翠はもう言い返すことを止めて、マドレーヌをおいしく頂いた。

「さ、外も暗くなってきたし、もう帰ろうぜ」

 マドレーヌを食べ終えてジュースも飲み干すと、幸成は立ち上がり、ゴミを教室の後ろに置かれたゴミ箱にまとめて捨てた。

『スイはスイーツのスイだから』。帰宅してからも、翠の頭からこの言葉が離れない。一体どんな意味があるのか分かるはずもない。けれど、幸成の中で、スイーツ仲間として認定されていることだけは分かった。

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