翠も甘いも噛み分けて
「なんか浜田さん、怒ってるっぽくなかった?」
「やっぱそう思った? なんか目が笑ってなかったよね」
「もしかして、私たちうるさすぎたかな」
「伊藤ちゃん、ごめん、後で浜田さんに謝っといてくれるかな?」

 みんなの視線が翠に集まり、嫌だとは言わせない空気が漂っている。翠が騒いだわけじゃないけれど、原因を作った責任は感じている。だから素直に頷くと、一同は安心した表情を浮かべ、その後はいつも通りのランチタイムとなった。

 ランチを終えて翠は弁当箱を洗い、歯磨きと化粧直しを済ませると、荷物をロッカーの中へと仕舞った。まだ休憩時間は五分ほど残っている。バッグの中からスマホを取り出すと、幸成からメッセージが届いていた。

『今日は定休日だから、職場に迎えに行く。仕事が終わったら連絡して』

 昨日の今日で迎えに来てくれるなんて思ってもいなかった。お付き合いをしてると、これが普通なのか、それすらも翠には分からない。けれど、ぶっきらぼうな文面でも、幸成が翠のことを大切にしてくれているということだけは伝わる。翠は既読をつけると、了解とメッセージを送った。スタンプを押そうか悩んだけれど、午後からの仕事が待っている。時間に余裕がないため、そっけない返信となったけれど、きちんと意思表示をしたのでそれでよしとばかりにスマホの画面を落とすと再びバッグの中にしまい込んだ。

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