翠も甘いも噛み分けて
「独立開業するにあたって、通勤時間がもったいないから店舗兼住宅にしたんだ。銀行は独身者が家を建てるのを不審がってたみたいだけど、将来的なことも考えてって言ったら、なんとかローン組ませてくれたよ」

 お湯が沸いて、幸成は二人分のコーヒーを淹れている。この空間に、昨日と同じくコーヒーの匂いが漂っている。
 幸成は、冷蔵庫の中から生クリームとフルーツを取り出すと、翠をキッチンに呼んだ。

「仕事場は衛生面の関係で俺以外の立ち入りは禁止にしてるんだけど、ここはプライベートスペースだからな。翠、これ、好きに飾りつけするけどいいか?」

 なんと贅沢にも、翠の目の前で仕上げの飾りつけをしてくれるようだ。
 ケーキは一番小さいサイズの四号の型で焼かれている。
 ケーキの型は、一号の大きさが約一寸(約三センチ)で、ケーキのサイズが大きくなるにつれ、直径が三センチずつ増えるのだという。明日の商品用に焼いた生地のあまりなので、これは売り物ではない。翠は先ほどのショックを忘れてケーキに見入っていた。

「プロの仕事を目の前で見れるなんて滅多にないから嬉しい。飾り付け、見てていいの?」
「ああ、じっくり見てていいよ」

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