翠も甘いも噛み分けて
 幸成はそういうと、クリームの入った搾り袋を何種類か取り出した。不思議に思って搾り袋を眺めていると、幸成が搾り口の金型の形が一つ一つ違っていると説明してくれた。言われてみれば、確かに搾り口の金型の形がそれぞれ違う。これで出てくるクリームの形状を変えて飾りつけをするのだという。
 幸成はそのうちの一つを手に取ると、ケーキの表面に模様を描くようにクリームを搾りだした。その作業が終わると、今度は別の搾り袋を手にする。
 搾り口が横一直で平べったい金型と、カップケーキの型を手に取ると、幸成はその型をひっくり返し、底の中央部分にクリームを搾り出す。これからなにが始まるのかと、翠は横から見ていると……なんということだろう。そこには生クリームで作られた薔薇の花が咲いている。

「わぁ……すごい……」

 翠の口からはすごいの言葉しか出てこない。幸成は真剣な表情でバラの花を完成させると、また別のカップケーキの型をひっくり返し、その上に二つ目のバラの花を咲かせていく。
 完成したバラの花は、パレットナイフをカップケーキの底に添わせ器用にスライドさせ、まるで花を摘み取るようにパレットナイフ上に移動させた。それを別のパレットナイフを使い、ケーキの上へと載せると、その繋ぎ目を目立たなくするように葉っぱの形を搾りだす。生クリームに食紅で色をつけているからか、ケーキの上にバラの花が咲いたように見える。

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