翠も甘いも噛み分けて
 プロの技を、翠は目を輝かせながら眺めていると、幸成は搾り袋を片付け始めた。どうやら今度は果物を飾りつけるようだ。

「果物、自分で飾ってみるか?」

 作業の手を止めた幸成が翠に問いかける。翠は少し考えたあと、首を横に振った。

「いや。私が下手に飾りつけしたら、せっかく綺麗なクリームのバラが潰れそう……これだけでも充分華やかだよ」

 精一杯の返事をすると、幸成は苦笑いをしてケーキとケーキ皿、フォーク、ケーキナイフをトレイに乗せて、ダイニングテーブルへと運んだ。翠はその後について行く。

「もし果物食べたかったらいくらでも剥いでやるから。でも先に夕飯だろ、腹、減ってないか?」

 幸成にそう言われて、翠は急激に空腹を感じた。翠のお腹がかわいらしい音を鳴らすと、お互い一瞬黙り込んだけれど、どちらからともなく笑いが込み上げてきた。

「一緒に作るか?」
「うん、手伝うよ」

 幸成は再びパントリーの扉を開き、中からスパゲティと鍋を取り出すと二人分を茹で始めた。翠は冷蔵庫からレタスを取り出すと、シンクで水洗いをしながらそれをちぎる。

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