翠も甘いも噛み分けて
 食器を洗い、ダイニングに戻った幸成は、翠の腕にそっと触れた。

「まだ痛いよな……もう少し早く会社に乗り込めばよかったのに、ごめんな」

 幸成が触れる手はとても優しくて、翠はホッと安らぎを感じる。十年前に、こんなスキンシップなんて取ることはなかったけれど、あの頃から幸成のそばは、とても居心地がよかった。
 あの頃、この気持ちに気づいていたら、今頃どうなっていただろう。

「ううん、そんなことない。守ってくれて嬉しかった……ありがとう」

 恥ずかしくて幸成のことを正視できず、俯いたままの翠を、そっと抱き寄せた。お互いの心臓が早鐘を打っている。

「……昔さ、彼氏ができたら名前で呼ばれたいって言ってだだろ? 俺なりに頑張って呼んでみたけど、やっぱりスイって言いそうになるんだよな」

 幸成の声が耳に直接響くのは、身体が密着しているせいだ。幸成の鼓動が、声が、伝わる体温が、全てが心地よい。

「スイ、でいいよ。てか、高橋くんだけだから。『スイ』って呼ぶのは。だから、どっちでもいい」

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