翠も甘いも噛み分けて
 その言葉に、幸成は翠を抱きしめる腕に力を込めた。今にも壊れそうなくらいに小さい身体を、ずっと昔からこうやって抱きしめたかったと言えば、もしかしたら翠は引くだろうか。
 学生の頃の翠は肉付きがよくて、柔らかそうで、あの頃もこうして抱きしめたかった。だからこそ、結婚式で翠に再会した時に、あの頃の体重まで戻した上でこうしたかった。こうして触れてしまったからにはもう我慢なんてクソくらえだ。

「わかった。じゃあ、二人だけの時は、今までみたいにスイって呼ばせてくれ」

 幸成の声が、心なしか震えていた。翠は小さく頷くと、顔を上げた。

「そう言えば昔、高橋くんと話をしてたよね。有名パティシエになった暁には、欲しいものがあるんだって。で、私がそれをプレゼントするって。今更なんだけど、開業祝いも兼ねてプレゼントするよ。高いものは無理だけど、なにがいい?」

 翠の上目遣いに、幸成は完全にノックアウト状態だった。
(なんだこのかわいい物体は! もう絶対に誰にも触れさせたくない)
 正直言って、翠に対してここまで独占欲が湧くとは思わなかった。学生時代から一緒にいて居心地がよく、ずっと気になる存在だったけど、決して見た目で惚れた訳ではない。けれど、好きになれば、そのぽっちゃりとした身体に触れたくて仕方なかった。この前、勢いで『今日から彼女』発言をしたけれど、あの言葉が本当になって欲しいと、どれだけ願ったことか……

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