翠も甘いも噛み分けて
「……が……い」
「え? ごめん、聞き取れなかった。もう一度言って?」

 翠の言葉に幸成は抱擁の手を解くと、改まって翠と向かい合い、深呼吸をすると覚悟を決めたように口を開いた。

「……スイが欲しい。今日会った奴がいるような職場にはもう行かせたくない。ここに閉じ込めてしまいたいくらい、スイのことが好きだ」

 突然の告白に、翠の頭は真っ白になった。つい最近、幸成への恋心を自覚したばかりの翠は、素直に幸成の言葉を信じられないでいる。今日はエイプリルフールでもなく、これが夢ではなく現実だということを認められない。

「高校の頃、みんながよく言ってた『付き合ってる時はいいけど、別れたら気まずくなるから校内での男女交際はしたくない』っての、俺もそう思ってた。スイのことが好きだった。だからこそ、スイが俺を拒否したらと考えたら怖くて、友達のラインを踏み越えられなかった」

 翠は信じられないという表情を浮かべて幸成のことを見つめている。幸成は、翠に自分を受け入れて欲しくて、ゆっくりと言葉を選びながら、言葉を続けた。

 幸成はそう言って、翠の唇を自分の唇で塞いだ。最初は触れる程度に、続いて角度を変えてゆっくりとキスをした。幸成の唇は少し乾燥しているのかカサついていたけれど、弾力性のある柔らかい唇だった。同じものを食べていたせいで、ファーストキスはツナマヨの味がした。けれど次第にそんなことは気にならなくなるくらい、翠は幸成とのキスに溺れている。

< 42 / 51 >

この作品をシェア

pagetop