天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う


 玄関を出ると蒸し暑い夏の昼の日差しに包まれた。

 はや九月、残暑というにはもう秋に近いはずが、強すぎる外の光に乃愛は眩しそうに顔をしかめる。その様子に啓介さんが心配そうに片手をかざして日陰を作る。

「向こうでの用事を済ませたら、あらためて迎えに来るよ。俺の両親に乃愛を会わせよう」

「乃愛、楽しみだね」

 啓介さんのお父様とお兄様が帰国した。

 込み入った話があるのか、彼は数日実家で過ごすらしい。

「じゃあ、帰りはそのまま実家に行くが、なにかあったら遠慮なく電話して」

「はい」

「暑いから見送りはもういいよ。中に入って」

 啓介さんは乃愛の頭を撫でて、名残惜しそうに車に乗った。

「ばいばーい」

 いつものように乃愛の手をとって啓介さんに手を振り、いいとは言われたものの、そのまま見えなくなるまで見送る。

 数日と言っていたが、彼がいないのは寂しい。

 私たち夫婦の再出発からひと月。

 何事もなく平和に過ぎた。

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