天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「あらあら、寝返りもできるようになったのね」

「そうよ、すくすく成長している。お母さんもここで一緒に見届けてよ」

「それはそれ」

 顔は乃愛のに向けているので笑顔だが、相変わらず聞く耳がないようだ。

「もう。言ったでしょ? 誤解だったって」

 リビングのソファーに腰を下ろし「莉子。いいから座りなさい」と言う母の表情はひどく硬い。

「今から椿さんと会うわよ。乃愛はサトさんにみてもらって出かける準備をはじめなさい」

 え? 耳を疑った。

 椿さんというのは島津椿。啓介さんのお母さまだ。

 なぜ、ここでお母さまの名前が出てくるのか。

「どうして?」

 啓介さんが今夜実家に行くというのに?

「私は啓介さんの顔を見たくないの。それに、椿さんも離婚には賛成だし」

 離婚はしないって散々言ったのに。

「お母さん、島津のお義母さんに、なにを話したの?」

「なにって決まってるじゃない。啓介さんが浮気をして子どもまでいる話よ」

「そんな、勝手に」

 鈴本小鶴の子どもの話は、つい私が口をすべらせてしまったのだ。『彼女の子どもは啓介さんの子どもじゃなかったの』と。

 後悔してももう遅い。
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