天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う


 秋はすぐそこまできている。

 ついこの前まで暑い暑いと思っていたはずが、通りを抜けるほどよい風が頬を撫でていく。

 呼応するように、私の中の熱かったものも冷えていく。

「いよいよ啓介さんは今日が最後ね」

 庭を見つめたまま母の言葉に「うん」と、短く返事をした。

 離婚が決まった次の日。私は離婚届を区役所に提出した。あれから一週間が経ち、啓介さんは病院を去る。

 私は静かな気持ちでこの日を迎えている。

「莉子、ごめんね。私が島津さんに彼女の話をしてしまったせいで」

 隣に立った母は、そう言って深い溜め息をつく。

 島津のお母さまに鈴本小鶴の存在を知らせてしまった責任を感じているのだ。

「気にしないで。それを言うなら啓介さんに相談もせず一方的に彼を疑った私が悪いんだから」

 正直いうと、母のせいだと思わなかったわけじゃない。

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