天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「夕方院長とおかあさんと経営コンサルタントを交えて話をする。問題がないように引き継いでおくから心配ないよ」

 啓介さんのことだから、その通り私たちが困らないように采配してくれるのだろう。

「ありがとう」

「いや、俺のせいだから」

 啓介さんは島津のお母さまが邸に来た件を謝った。

「小鶴は密かに東京を離れた。俺が渡米すれば、母はじきに忘れていくと思う。だから安心してほしい」

「私は本当に大丈夫よ。母もサトさんも、乃愛もいる。ひとりじゃないもの」

 心苦しそうに表情を曇らせる彼に、私まで心配かけたくない。

「母は強しなんだから」

 精一杯明るく笑うと、彼もつられたように白い歯を見せた。

 笑った勢いで思い切って声をかけた。

「あのね、啓介さん」

「ん?」

「ひとつだけお願いがあるの、最後に乃愛の思い出を作ってあげてくれる?」

 私はもう十分なだけ思い出をもらっている。

 啓介さんの温もりは心にも体にも刻まれているから、心配ない。

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