天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 柄にもないことをして、結局傷つけてしまったが……。

 初恋だったんだよな。

 一応toAの後輩、須王燎に見合いの報告をすると、彼は『やっぱり一目惚れだったんじゃないですか』と笑ったが、その通りだった。

 莉子をこの腕に抱き愛しむうち、心を満たしていく彼女の温もりが俺の生きる意味を教えてくれた。

 俺が愛した唯一の妻、莉子。今も彼女を想う気持ちに変わりはない。

 むしろ強くなった。

 一緒にいるだけが愛じゃない。遠くで見守るという形の愛情だってある。莉子と乃愛が幸せならそれでいいと思えるほど、心から愛している。

 俺はただ働いて養育費を送り、父親としての最低限の務めを果たす。金で幸せが約束されるわけじゃないが、あって困りはしないだろう。

 足長おじさんのように遠くから、ふたりの幸せを願い見守る。

 それで俺は充分だ。


 ふいに、キャッキャという子どもの声がした。

 つられて横を向くと、着物姿の若い男が子どもを高く抱き上げていた。

 二歳児くらいか。

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