天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 予想通り彼は大人で、多分恋なんてとっくの昔に経験済みで、恋愛未経験のお子ちゃまな私の心を掴むなんて簡単だったと思う。

 新婚初夜、抱き上げられてベッドに横たわり、唇を重ねたときにはもう。私はストンと啓介さんに落ちていた。

 あの夜を境に、私の世界は啓介さん一色に染められて、起きては啓介さんの温もりに安心し、啓介さんを想って眠りにつく毎日。

『莉子』

 あれは何時頃だったんだろう。

 寝ぼけ眼のまま、返事の代わりに腕を伸ばして、彼の唇を受け入れた。

 夢み心地のまま抱かれていると、甘い水の中で泳いでいるようだった。溺れそうになると、啓介さんの唇が空気を送ってくれて、彷徨う指先を彼の長い指先が絡めとる。

『莉子……。莉子』

 何度も呼ばれながら。

 なにが現実でどこからが幻だったのか、記憶は曖昧だけれど、体に残る余韻が夢じゃなかったと教えてくれた。

 大好き、啓介さん……。

 新婚一カ月。そんな調子だから毎日が楽しい。

 唯一の悩みは、啓介さんが忙し過ぎること。

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