天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「パパ、ペンギン、いる?」

「ああ、いるよ」

「乃愛ペンギン好きだった?」

 家では一度も言ってなかったと思う。

「パパと、おえかき、したの」

「そうだよな」

「えー、ずるいママには見せてくれないの?」

 笑いながら歩く私たちは、まわりから見れば幸せな家族なんだろう。

 見せかけじゃなく、この瞬間は幸せが溢れてる。乃愛の笑顔、啓介さんの微笑み。私はこのふたつだけあれば幸せでいられるから。でも――。

 期待はしない。

 離婚なんて未来は想像できないくらい幸せだったのに、結局離婚したんだもの。私と啓介さんは乃愛が繋いでくれているだけ。

 真知子先生が啓介さんが宿泊するホテルに突撃しようかな、と言うのも止められなかった。夕べ、真知子先生は啓介さんに会いに行ったのか。

 真知子先生の願いは叶ったのか。

 私には嫉妬をする権利もない。

「ママ、ママ」

「ん? なに?」

「なかないで」

 ドキッとして危うく顔が引き攣りそうになる。

「あはは、泣いてないよ」

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