天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 どうか誰も具合が悪くなりませんように、私から啓介さんを取り上げないでと願いながら腕を伸ばして、濡髪でバスローブ姿の彼に抱きついた。

 啓介さんはクスッと笑ってキスをしてくれる。

 そんな軽いキスだけじゃ私の寂しさは消えないの。

 言えない代わりに強く強く彼の背中にしがみついた。

 好きよ。大好き。

「莉子?」

 少し低めの耳に心地よい声も、抱きしめてくれるときの力強さも、なにもかも。大好き。

「どうした? まだしたりない?」

「いじわる」

 くすくす笑いながらまたキスをする。

「トーストとベッド、どっちがいいんだ?」

 いくらなんでも朝からベッドだなんて言えるわけないのに……。

 口を尖らせたところでおなかが色気のない音を立てた。

 啓介さんが笑いながら私の頭をなで、コーヒーカップに手を伸ばす。

「まずは腹ごしらえをしよう」

 背中に漂う大人の余裕がちょっと憎らしい。

「シャワーを浴びておいで、なにか作っておくから」

「うん。ありがとう」


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