天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「浮気をして、不義の子を産んだから」

 嘘でももう、取り返しがつかない。



 病院を出て、振り返った。

 壁も綺麗に塗られて、まるで別の建物のようになった山上総合病院。

 院長の話によれば、がらりと変わった職員を見て、父は啓介さんの両手を取り『ありがとう』と、泣いたという。

 父がよく言っていた『啓介くんには感謝しかない』という言葉にはそういう内情もあったのだ。

 それなのに私は、父をバカにするような噂話に惑わされ、表面上の出来事しか見ていなかった。奥に隠された真実を知ろうともせずに。

 白亜の病棟に父を重ねて問いかけた。

 お父さん。どうしたらいい?

 私が経営の勉強をして引き継ぐなんて、できるのかな。医療の知識なんてないのに。

 啓介さんの浮気に目をつむり、啓介さんに謝って続けてもらうしかないのかなと考え、それは無理だと思い直した。

『俺があくせく働いているうちに、妻が浮気をして妊娠したって言うんじゃな』

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