せんぱいのおまじない
 彼女と話してみたいと思っていたけれど、学年も違うし、わざわざクラスまで行くのも不自然だし。気にはなっていたものの、なかなか会える機会がなかった。

 けれども、その機会は訪れた。

 あれから一ヶ月ぐらいたった。
 彼女が再び保健室に来た。

「あっ!」

 彼女はドアを開けると俺の顔を確認した。そして驚きの声を漏らし、そのまま入らずにドアを閉めた。

「えっ?」

 俺は慌ててドアを開けた。
 彼女がドアの前で立っていた。

「どうしたの? ここに用事あるんでしょ?」

「うん、でも……」

 彼女がチラチラと何か言いたげにこっちを見ていた。

「もしかして、俺がいるから入りずらい?」
「あ、いえ、そういう訳ではなくて」

 彼女は、不自然な程に大きく首を振る。
 よく見ると、また彼女の顔色が良くなかった。

「休んでいく?」

 この発言は、まるでこの保健室が自分の家のような言い方だ。それよりも具合が悪そうな彼女に早く休んで貰いたかった。

「あ、お邪魔します」

 彼女も俺の言葉につられたのか、俺の家に入るような言い方だった。

 彼女はベッドに腰掛けた。

「大丈夫?」

 また彼女におまじないをかけたくなり、彼女の頭を触ろうとした。触ろうとした瞬間、彼女は怯えたような表情をしたから、やめた。

「あ、ごめん」
「いいえ、私こそ、ごめんなさい」

 そうだよな、いきなり親しくもない男にこんな事やられたら、不快な気分しかないよな。

「ごめん、嫌だったよね? こないだも、ごめんね」
「嫌とか、そんなんじゃなくって……」

 彼女は手をもじもじさせながら、何か言いたそうな感じでいる。何か言うのを待ってみた。けれどもそれ以上何も言わなかった。

 無言の空気がちょっと居心地悪いかも。
 彼女もそう思っているのかな?

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