妖の街で出会ったのは狐の少年でした

1話 妖の街

昔、おばあちゃんから聞いたことがある。
この世界には異界の入り口があって、その先には妖の街がある。人間界と妖の街は表裏一体で、呪文を唱えれば、妖の街から使いが現れ、連れていってくれる。
でも、行ったら2度と帰れないから覚悟が必要だよ。と
それから条件がある、昼と夜が等しくなる秋分の日の、朝3時21分ぴったりに唱えないといけないと。
その呪文はーーー。

久しぶりに小さい頃の夢を見た。
私の名前は和葉。中学2年。父と母は交通事故で他界していて、親戚に引き取られたが、数週間。
正直に言ってうまくやれてない。 
私がもっとうまくやらないといけないんだろうけど、できない。夕ご飯の時はみんな揃って食べる。がやがやと賑やかだったのに私が何か話そうとすると、水を打ったように静かになってしまう。
ため息や舌打ちが聞こえる。私は謝るしかできない。
それからその日の夕飯はだんまりで終わる。それが最初の4日ほど続いた。もちろん私に話が振られることはない。それから私は一言も発さず、食事をする。賑やかなのを壊してはいけない、それが暗黙のルールになっていた。ごちそうさまと呟き、食器を流しで洗ってから、部屋に行く。
朝食も同じだ。一言も発言することなく、食器を洗ってから部屋に行く。
引っ越したのが夏休みの期間だったので家には同い年と年下の兄妹がいた。家族みんなで旅行に行く計画をしていた。私は毎日家で宿題をしていた。
初登校日、家で話すことがないので自己紹介は地獄だった。
学校でも陰湿、暗いと言われる始末。
友達なんてできやしない。親戚に引き取られるのと同じタイミングで転校した。しばらく
経っても、状況は変わらない。最初の数日は頑張って話そうとした。しかし話そうとすると緊張して、うまく言葉が出なかった。クラスのみんなはそれが面倒くさくなったのか、私が近づくと避けていく。家でも学校でも私は空気扱いだ。
そういえば、もうすぐ秋分の日。私がいなくなっても誰も心配しない。むしろ嬉しいだろ。決めた。秋分の日、私は決行する。
ー秋分の日の深夜
元々そんなに持ち物がなかったので、制服姿で手ぶらでいくことににした。
近くに神社があるのでそこでやることにした。神社に入る前に一礼する。腕時計を見ると、3時20分。あと少し、3.2.1.
私は手を組み祈るように唱える
「この世をつなぐものよ、願いを聞きいれたまえ、我は汝との契約を望むもの、この世の理に反する我を受け入れ、導いてくださり願うことを、かしこみかしこみ申す」
風が強く吹く。目を開けると、青い蛍のようなものがいる。私は躊躇なくそれを追いかける。道が入り組んでいて、転びそうになるが必死に走る。しばらく走ると、景色が歪み、道の両脇に提灯がぶら下がり夏祭りのような風景になる。息を整えながら歩いていくと立て看板を見つける。
妖の街へようこそ。
おばあちゃんの話は本当だったんだ。久しぶりに高鳴る鼓動を抑えながら、立て看板の先に行く。
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