妖の街で出会ったのは狐の少年でした

16話 求婚騒動!?

最近ロクがよくミスをするようになった
着物の着付けの時、帯のしばり方を間違えたり、学校と逆方向に行こうとしたり、呼んでも上の空で反応が遅れたり
「なぁ、大丈夫なのか?あれ」
ジュンも気になるみたいだ
「最近ずっとなんだよね」
「心配事でもあんのか?さっきも自分の席間違えてたし」
「重症だよね」
「カズハはもう着物着ねぇのか?」
「この服装の方が楽なんだよね」
「ふーん、まぁ着物より動きやすそうだしな」

最近よくない気配を感じることが多くなった。俺が万が一のため、簪をカズハ様にあげる理由になったあの気配だ。
向こうが本格的に手を出してくる前に、
手を打たなければ。
授業が終わり、カズハ様と共に宿に帰る。カズハ様が仕事をしているうちに策を練るようにしよう、と思っていた矢先
警戒していた気配を感じたので、そこにいくと
「一目惚れしました。結婚を前提にお付き合いしてくれませんか」
・・・・・はぁ!?

いつものように仕事をしていたら、
お客様から付き合ってほしいと言われた。頭が真っ白になって棒立ちしているとミズキさんが助け舟を出してくれた。
「お客様、ここでは他のお客様の通路を塞いでしまいます。お部屋にご案内いたします。」
お客様を部屋に通したミズキさんが戻ってきた。
「ありがとうございます。ミズキさん」
「気にしないで。でも隣町では有名な老舗呉服店の後継ぎよ、今のお客様。それと明日ここを出る時に返事が欲しいって」
「そう、ですか。」
仕事途中そのお客様と接待している感じでは好青年で、誠実そうな方だった。
部屋に戻ると、ロクが夕食を持って入って聞いてきた。
「カズハ様、単刀直入に聞きますけど
交際の件、どうするんですか」
「正直、迷ってるの。なんて返事をすればいいのかわからなくて。仲居の仕事もあるし、何より私は、」
「俺が邪魔ですか。・・・俺がいなかったらあいつのところにいくんですか」
「ち、ちがっ。そういう意味で言ったわけじゃ」
「すみません。俺は今虫の居所がよくないので、失礼します」
そう言って出て行ってしまった。
またやっちゃった。うまく言葉にできなくて、ロクを傷つけてしまった。大切な時にいつも失敗してしまう。
「ごめんなさい、ロク」
謝罪は虚しく消える。

俺、絶賛後悔中。
自分から振っといて勝手に怒って、引き返すとか、
「最低じゃん、俺」

「?あんた確かカズハの使いの・・」
「ミズキ、様?」
「どうしたんだ、何かあった?」
「実は・・・」
先程のことをミズキ様に話す
「なぁ、勘違いじゃなければそれって・・・嫉妬?」
「しっ、と。?」
「話を聞く限り、あんたはあのお客様に対するカズハのハッキリしない返事に腹を立ててんだろ?」
「嫉妬してカズハ様を傷つけるとか、」
ため息が出る。
何やってるんだろう。だったらやるべきことはただ一つ
「ミズキ様、ありがとうございました」
ミズキさんに一礼し、カズハ様の部屋に向かう。
「カズハ様、失礼します。」
「あ、ロク・・・。ごめんなさい、私の
配慮が足らなくて、あなたをキズ
つけた。ロクの気持ちを汲み取ることができなかった。あんな風に言われたら誰だって怒るに決まってるのに。」
「カズハ様、それは違います。俺が悪いんです。俺が嫉妬、なんかしたから。
主の背中を押して、幸せへの後押しをするのが使いとしての筋だというのに」
「嫉妬?どうして?」
「それは教えることができません。
俺の秘密にさせてください。」
「そっか。誰だって秘密にしたいことはあるもんね」
(カズハ様がどこかに行ってしまいそうで嫉妬したなんて恥ずかしくて言えるかよ)
ロク口元を押さえ、そっぽを向く。
耳がへたってるということは私に呆れているのだろうか。
次の日、私はお断りをして、お客様は帰って行った。

数日後、私の知らないところで号外が撒かれていた。
ーー老舗呉服店。長期に渡り人間の少女を幽閉し、奴隷のように扱っていた事実が・・・



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