妖の街で出会ったのは狐の少年でした

2話 暖かさ

大通りに出ると、建物の明かりが煌めいていてすごく綺麗だった。
「ねぇ、あなた人間?」
「え?・・・はい。」
道を歩いていた妖が話しかけてきた。
私が答えた途端、
「人間だ、人間のおなごだ」
「もてなせ、宴だ、宴だ。」
あれよという間に、私は囲まれ近くのお店に連れて行かれてしまった。
そこで店主に紫色の飲み物を渡された。
意を決して飲むと、酸っぱいような苦いような不思議な味がした。
隣に座っていたろくろ首のお姉さんが聞いてきた。
「あなた、名前はなんていうの?」
「か、和葉、です。」
「カズハ。いい名前だね」
誰かが言った。
ここにきた経緯を教えてくれと。
私は少しずつ話し出す。誰かと話すこと自体久しぶりで止まり止まりだが、誰も急かすことはなかった。全て話し終えると、みんな泣いていた。
「嬢ちゃん、辛かったな。ここには仲間外れにする奴はいねぇ。もしいたらオレがとっちめてやる。」
一つ目の店主が言った。最初は驚いたが情に厚いようだ。
狐の姿をした妖が私のところに来た。
「カズハ、あなた泊まるところはある?」
私が黙っていると
「ウチで働くのはどうかな?宿屋を経営しているんだ。3食と住み込み個室付き、あと家賃を引いたお給料付きでどう?休みたい時は遠慮しなくていいんだよ。羽を伸ばすのも大切だ。」
「いいん、ですか?」
「人が泊まるための宿屋だからね。それに初めてきた場所で野宿なんて嫌でしょ?」
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「決まりだね」
お店を出ると夜が明け初めていた。しばらく歩くと宿屋に着いた。
「私はナグモ。よろしくね、カズハ」
ナグモさんが手を出してきたので、握手すると手の甲に何か浮かんできた。
「案内するよ。ついてきて」
ナグモさんの腕にリングのように見えた。目を擦ると消えていた。
気のせいだった?
私は和室に案内された。
「ここが今日からカズハの部屋だよ。
ここにあるものは好きに使っていい。
浴槽にはシャワーと湯船があるから。
襖に布団も入っているから。仕事は明日から、今日はゆっくりして。分からないことがあったらなんでも聞いて。」
そう言いナグモさんは部屋を出て行った。が、すぐに戻ってきた。
「言い忘れたけど、下着類は無理だけど箪笥に浴衣が入ってるからよかったら使って」
「ありがとうございます。」
そう言ってまた、出て行った。
とりあえずシャワーを浴びて湯船に浸かる。急かされることなくのんびり入れるのはいつぶりだろう。浴衣を借り、布団を敷く。部屋の時計を見ると5時20分ほどだった。私は目を閉じるとすぐに眠りに落ちた
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