妖の街で出会ったのは狐の少年でした

72話 自覚

授業の休憩時間にオレはロクに聞く。
カズハは教員室に行ってるからちょうどいい
「なぁ、ロク。恋ってなんだと思う?」
「いきなりなんです?」
「ロクはどう思う?」
じっとロクを見るていると
「えっと、必ずこうなったら恋だ、
なんてことはないと思うんです。
それに恋人は必ず異性でないといけないという縛りはありません。
同性を好きになるなんておかしい。
異性じゃないとダメだ。なんて他人が口出し
する権利はありません。
本人たちが幸せならそれでいいじゃない
ですか、というのが俺の考えです。」
ため息つきたくなるな。
「なんですか」
「相変わらず大人な回答だなって」
「聞いてきたのそっちでしょ」
「ロク、好きな人いないのか?」
「いません。」
「カズハは?」
「カズハ様は主ですよ?恋愛感情は
ありません」
普通に聞いてもはぐらかすに決まってる。
鎌かけてみるか
「ふーん、じゃあ」
そう言ってオレはロクに近づき耳元で
「カズハのこと盗っちゃおうかな」
「なっ」
明らかに動揺している。
「冗談だよ、冗談。そんな怖い顔するなよ」
軽くあしらうと
「冗談にして良いことと悪いことがあるでしょう?怒りますよ」
すでに怒っているように見えるオレはおかしいのだろうか。
でもあと一押し。
「怒るってことは主以上の感情をもってるってことじゃねぇのか。」
「それは」
ロクの返事を遮り続ける。
「宿屋の規則とかは知らないけど、自分の気持ちに素直になった方が楽だと思うけど。
誰かに盗られてから自覚しても遅いぞ。」
ロクは黙っている。
(いつもスマートなのにこういうのは
鈍感というかなんというか)
「もしカズハに好きな人ができたらどう思うんだ?」
何を考えたのか真顔から不機嫌顔、次は疑問顔、最後はボッと言葉が正しいくらい真っ赤になり、耳と尻尾が逆立った。
(面白いな、百面相して。乙女か。)
「もしかして気づくの遅すぎですか?」
「気づいて、そこからどう動くかだから
気にするな」
「そうですか。ところでジュンは?」
「え、オレは」
言いかけたところで鐘が鳴る。
「この続きはまた今度。」
「え、ちょっと。」
正直、助かった。
オレはナツキが好きだけど、
多分ナツキが好きなのはオレじゃない。

カズハ様に好きな人ができたら、ジュンに聞かれ思ったのは、なんか嫌、だ。
(ん?なんで嫌だって思ったんだろう)
同時に好きな人に向ける視線の相手は俺が
いいと思った。
自分の気持ちを理解した途端体温が高くなるのを感じた。
(まさか、だって主様ですよ!?)
ジュンに好きな人を聞こうとしたら鐘が
鳴ってしまった。仕方ないが席に着く。
先生が来る前にカズハ様が戻ってきた。
変に意識してしまう。
授業が終わり、帰り道。
「ぇ、ねぇ、ロク!」
カズハ様に呼ばれて我に帰る。
「大丈夫?」
「え、あ、大丈夫ですよ。すみません。」
「本当?」
心配させてしまった。この後も業務に支障が出ないから心配だ。

夜。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「すみません」 
「いや、責めてるわけじゃないんだけど。」 
今日は失敗ばかりだ。
帯の縛り方を間違えたり、
畳のへりにつまづいて転びかけたり。
「疲れてる?しばらく休んだら?」
いつもだったら断るが
「すみません。そうさせてもらいます。」
一応今日の仕事を終え、部屋を出る。
自覚してから何もかもうまくいかない。
どんどん赤くなる顔を手で覆い床にへたり込む。
「気付かなきゃよかった」
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