妖の街で出会ったのは狐の少年でした

74話 オレの答え

試験が終わりひと息ついたら進路を考えなければいけない時期になった。オレは、
第一志望と第二志望、どちらも決めてはいるが、どっちの道に進もうとこの街をでなければいけないことには変わりない。
ナツキと会える回数も今より減っていつか
疎遠になったりするのかな。
そんなことを考えていると、ヨナガ先生に
呼ばれた。
「ジュンさん」
「あ、はい。」 
駄目だ。今、面談中なのに
「心ここに在らず、ですけど大丈夫ですか」
「あ、ごめんなさい」
ヨナガ先生は一息ついて
「第一志望と第二志望の進路の変更は
 ありませんか?」
「はい」
「はっきり言いますと、あなたの学力で
第一志望は厳しいですよ。」
「やっぱり、ですか」
「まぁ、第二でもぎりぎり、でしょうか。
冬休みはほとんど机に向かわないと
入学してからがきつくなりますよ。」
「分かっています。」
「もう少し、ハードルを下げてみては?
遠回りにはなりますが、夢を叶えるための道には変わりませんよ。」
「いえ、遠回りはしません。
もう、何もできなかったという後悔はしたくないんです。」
「成長しましたね」
「え?」
ヨナガ先生が思い出すように語る。
「あなたがこの学校に入学してきて、
最初に思ったのは騒がしい子、でした。」
(騒がしい・・・)
「教え子たちが卒業してあなたが最年長に
なってからチヨたちの面倒をよく見てくれていました。面倒見が良くなった反面夢や
目標がなく将来に対しても関心がありませんでした。でも卒業間近ではありますが、
夢を見つけた。その影響を受けたのはナツキさん、ですね?」
図星だ
「よく、見ているんですね。」
「教師ですから」
「オレ、ナツキと出会う前はどこに行っても平和な世界だと思っていたんです。でも、
実際はそうじゃなくて、日向と日陰があるように、オレがただ何気なく過ごしている毎日でも、1日1日生きることが大変な人もいるんだなって。」
ヨナガ先生は何も言わなかった。
「オレは無知でした。親友を助けることも
できなかった、ただのガキ。助けられなかったのに親友なんて言っていいのか分かりませんが。」
だんだん声が小さくなった。
「日陰にいるすべての人を日向に連れて行くことがは難しいことなのは分かっています。知らなかったで済ますことはもうしたくないんです。」
自分に言い聞かせた
「オレのやり方で日向に導くことができる
そんな保護管になりたいんです。」
これがオレの答えだ。
「そうですか。」
先生はそれだけ言って、面談は終わった。
一応他の学校案内の冊子をもらったが、
オレの決意は変わらない。
それからその日の夜
居間で新聞を読んでいた父さんに進路変更
したことを報告したら
「相談もなしに変更して、
認められると思ったのか?」
見事に衝突した。
「勝手に進路変更したのは反省してる。
ごめんなさい。でもオレは本当の夢を
見つけたんだ。本当にやりたいことを見つけたんだ。」
そう言って、オレは行きたい学校の冊子を
見せた。
新聞をたたみ冊子を開くと父さんは
眉を顰めた。
「高い」
独り言で言ったと思うけどはっきり聞こえた。多分学費だ、
前に相談した学校の学費の3倍する。
「前の学校より高いじゃないか。
うちにはそんな余裕はない。」
きっぱり言われてしまった。
「それでも、オレは叶えたい夢があるんだ」
オレのはっきりとした答えに
根負けしたのかため息をつき
立ち上がり数歩歩いて言った
「入学費は出す。が、学費は無理だ」
それって
「はい。」
扉に手をかけながら振り返り
「入学は許可したが、自分で選んだ道だ。
失敗しても責任転嫁しないでくれよ」
その言葉に笑みがこぼれた。
そう発した父さんは悲しそうな、でも安心したような顔をしていた。


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