妖の街で出会ったのは狐の少年でした

86話 全員で

そして卒業の日。
俺が宿を出ると、
「ジュン、どうしたんですか?」
ジュンが宿屋の壁にもたれかかっていた。
「オレ、ロクとカズハと登校したことなかったなって。
最後の日くらい、一緒に、登校、したいなって、」
しどろもどろに答えたジュンがなんだか可愛く見え、
吹き出してしまった。
「な、オレ、おかしいこと言ったか!?」
顔を赤くして怒ってしまった。
「なにもおかしくありませんよ」
「ホントかよ、ところでカズハは?」
「あ、カズハ様は」
「ごめん、待った?」
ロクが言うと、カズハに遮られた。
「あれ、どうしたの?ジュン」
「いや、それはこっちの台詞。どうしたんだ、その頭?」
カズハは三つ編みを2つ作り一つにまとめていた
(サイド編み込みというらしい)
「あー、これ」
カズハは少し照れながら話し出す。

「服装はカズハ達がそう決めたんなら口出さないけど、
髪!髪は飾ろうよ!」
「あの、ミズキさん。私は別に」
「女の子はおしゃれして可愛くいないと。
カズハは何もしなくても可愛いけど。
今日くらいはもっと可愛くしないと!」
「ミズキさん性格変わってません!?」

「と、いうことに」
「なるほど?まぁ、似合ってるよ」
「ありがとう、ジュン」
「そろそろ、行きましょうか」
「ところでジュンはなんでここにいるの?」
「え、なんとなく?」
「なにそれ」
そうしてオレたちは、最初で最後の登校をする。

私たちが教室に入ると、それぞれの机の上に
コサージュが置いてある。
ロクの机には紫の花
ジュンの机には黄色い花
私の机には桃色の花
ナツキの机には赤い花
おそらくはロクのは桔梗、ナツキのは椿、 私のは桜
でもジュンのがなんの花なのかわからない。
「ねぇ、ジュンの花って何?」
「オレ、花は詳しくないからわからない」
「ロクは?」
「俺も、花にはあまり。」
3人して悩んでいると校長先生とヨナガ先生が袴姿で入ってきた。
当たり前だが2人とも固まっていた。
卒業生が普段着で来ているんだから
そうなるよね。
「えっと今日、卒業式だってわかってます?」
「分かってますよ。校長先生」
ロクは静かに答えた。
「なのに、なんで」
「オレが言い出したんです。もちろん正装で行うことも知っています。」
ジュンは慌てて答えた。
「わがままなのは分かってます。でも、学校に来ることも今日で最後。」
「最後の日だからいつも通りの俺たちで卒業式をしたいんです」
私たちは怒られることを覚悟で頭を下げる
「「「お願いします」」」
ヨナガ先生はしばらく考え込んで深いため息をついた。
「最後ですしね。聞いてあげますよ、あなた達のわがまま。」
私たちは胸を撫で下ろす

3人で会話をす生徒たちを眺めながら
「珍しいですね、ヨナガ先生が目を瞑るの」
「校長先生」
「以前私に甘いと言いましたが大概、あなたも甘いですよ。ヨナガ先生」
そう言うとヨナガ先生は照れかくしなのかそっぽを向いた。

「準備が、整うまでもう少し待って
いてくださいね」
そういうと、先生たちは出て行った。
私たちは後校舎を練り歩き
教室に戻ってきた。
そこから約30分。やることがなく各々本を
読んだりしていた。
卒業式は卒業生と教師だけでやるため、
教室はとても静かだ。
ナツキの机にあるコサージュを手に取る。
「これ、どうするの?」
「あとで送るか?」
ジュンと話していると、
「その必要はないですよ」
「校長先生!」
「その必要がないって?」
扉の前にいた校長先生が、斜め後ろに下がる。
誰かが歩いてくる音が聞こえる。
扉の前に現れたのは
「久しぶり?」
「「ナツキ!」」
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