妖の街で出会ったのは狐の少年でした

90話 主と使い

ジェットコースターの列に並んだが、案外すぐに私たちの番になった。
「楽しみですね。」
「そ、そうだね」
なんかぎこちないな。
私もだけど。

最前線の椅子に座り、係員さんが安全バーを下げる。
ロクは悪戯顔で聞く。
「怖いの?」
「ま、まさか。武者震いですよ」
なんて言ったが、本当はすごく怖い。
というかジェットコースター初なんだよな。
どんどんレールが見えなくなる。
登るたびになるガタガタということが私の緊張を昂らせる。
車体が一番上まで来て少し止まる
「カズハ」
車体が急降下する寸前にそう聞こえた気がした。
でもそれはすぐに風の音でかき消される。
名前を呼ばわれたことが気になりすぎて
ジェットコースターどころではなく、気が付いたら終わっていた。
降りてから、
「あの、先程何を言いかけたんですか?」
「先程?」
「コースターが落ちる寸前、」
「?」
ロクは意味がわからないらしく困り顔になった
「ごめん、なんのことだかよくわからない」
「そう、ですか。ごめんなさい、私の気のせいだったみたいです」
ロクは不思議そうな顔をしたが、反対に私の顔には影が落ちる。
そんな私をみてか
「少し、休もうか」
 とロクは言った。

私はベンチで休んでいる。ロクは
「はい、これでよかった?」
「あ、ありがとうございます」
自動販売機で、飲み物を買ってきてくれた。
「何かあった?」
優しく聞いてくれるが何も答えられない。
「なんでもないよ、大丈夫。ごめんなさい、私たった1日なのにちゃんと使いできてない」
「誰だって最初から上手くできる人なんていませんよ。大丈夫。
焦らなくていいんですよ」
ロクは隣に座って答えてくれた。
でも、すぐに立ち上がり
「さて、そろそろ続きと行こうか。立てる?」
「はい、いきましょうか。」
私たちは、空中ブランコ、シューティングゲームなど遊び倒した。
帰りの電車で、ロクは疲れたのか私の肩に体を寄せて眠ってしまった。
まじまじと見たことはなかったけど、ロクの寝顔は幼く思えた。
それからいくつか駅を通り過ぎて、私たちが降りる駅が近づく。
肩を軽く揺するとすぐに起きた。
「あ、ごめん。」
小さくあくびをするロクは小動物みたいだ。
そして私の部屋の前で
「今日はありがとうございました。
また、明日からはいつも通りに使いをさせていただきます」
そう言い、一礼してロクは踵を返す。
この後、あんなことが起こるなんて私は知らない。

カズハ様と別れて俺は部屋へは戻らずナグモ様の部屋へ。
「失礼します」
学校を卒業してから、週に1回、近況報告することを命じられた。
「お加減いかがですか、ナグモ様」
最近ナグモ様は体調を崩されることが多い。
ナグモ様は普段人間のお姿をしていたが、
最近は素の狐のお姿でおられる。
妖力も弱っておられるのか。
「今日はどうだったの?変わったことはあった?」
ナグモ様は弱々しくそう聞いてきた。
「本日はカズハ様と遊園地へ行きました。今週で変わったことは特にございません」
「そう、よかったわ。ロク」
「はい」
「お誕生日おめでとう」
覚えていてくださったのか
「ありがとうございます。ナグモ様」
「なにも出来なくてごめんね」
「そんな、滅相もございません。その、お言葉だけで十分です」
ナグモ様はクスリと笑い
「あのねあなたは、ー」
「、え?」

運命の歯車はどこへ向かう




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