妖の街で出会ったのは狐の少年でした

91話 立場

あの後から特に問題はなく毎日が過ぎ、気づいたら卒業から3年が経っていた。　
ジュンは学校を主席で卒業し、4月から本格的に新しい環境で保護官として活動をすると手紙で知った。ナツキの方も今までの生活をメディア取り上げられてから施設を国から設けられそこで似た環境の子供たちと生活を続けているとニュースで見た。この3年で生活はぐっと現代に近くなった。電話と共にテレビも普及しつつある。嬉しいことが続く中ロクはどこか思い詰める表情をしている。
「ロク？どうかしたの？」
「え、いえ、なんでもありません」
「そう？」

あれからナグモ様の体調は悪くなる一方で、
最近は食も細くなっているらしい。
もし、いや縁起でもないことを考えるのはよそう。
カズハ様はこのことを知らない。
ナグモ様から余計な心配はかけたくないとのことだ。
俺はカズハ様に伝えるべきか否か葛藤しながら過ごす。

あの後、俺もカズハ様も電話を持つことになった。
何かあってもすぐに連絡できるようにと宿での規則で与えられた物だ。
俺はジュンに電話をかける。　
卒業して翌年の8月末にジュンがこっちに戻ってきたからその時に連絡先を交換した。
「もしもし、珍しいな、ロクがかけてくるなんて。」
「久しぶりですね、ジュン。すごいですね。主席で卒業するなんて。」
「まぁな。でも保護管っていっても目立った活動はないぜ、あっても、表には全くと言っていいほど公表されないからな」
「縁の下の力持ちですね。」
久しぶりでお互い会話が弾む。
「それでどうしたんだ。ロク」
「実は、」
俺の恩人が体調が悪いこと、カズハ様にとっても特別な人だということ
カズハ様には黙っているよう言われたことを話す。
「ジュンならどうしますか？」
「オレだったらカズハにいうかな」
「なんでですか？」
「それってどっちに転んでも怒られるやつだけどさ、もしその恩人が重い病気で縁起悪いけど、亡くなったらロクはカズハにめちゃくちゃ怒られる。でもそのあとは後悔しか残らないんじゃないか。
カズハにも、ロクにも。」
すごい正論だ。
「でも」
俺は言いかけると
「その、恩人という人がどういう人かオレは知らない、ロクにも立場があると思う。
でも、カズハはどうなるんだ。」
俺は息を呑んだ。
「カズハはロクを責める、でもそれ以上に自分を責めるよ。
言いたいことも言えぬまま全てを知った時には遅すぎた、虚しさと後悔しか残らない。
使いは主に後悔させるのか」
俺が馬鹿すぎたんだ。
そんな簡単な答えも出せなかった。
ナグモ様には怒られると思う。でも
「そうですか」
そう言い、俺は電話を切る。

今日は先輩たちと卒業祝いということでちょっといいレストランへ。
最初は渋ったが、奢りだと言われたので来ている。
料理が来る前だったからちょうどよかった。
先輩に断りを入れ、店の外で電話を取る。
一通り、聞いてオレの意見を伝えると切られてしまった。
「あ、ちょっと、今のはオレも意地悪しすぎたかな」
少し後悔が残るが先輩に呼ばれたので電話をしまい、店に戻る。
(まあ、最後に決めるのはロクだしな)

俺は、カズハ様に全て話した。
驚きながら、部屋を飛び出す。
「カズハ様、」
後を追いかけると、やはりナグモ様の部屋の前だ。
そこには
「ミズキさん？」
「ミズキ様はどうして」
「たぶん2人と同じ理由だよ」