恋桜~あやかしの闇に囚われて~
一
はらり、はらりと。
古い塚に根を張る桜の古木が、妙に生温い夜の風に花びらを散らす。
その塚の周囲にはかつて何本もの桜が植えられていたが、桜守のいない今では生き残ったその一本の巨木だけが見事な花を咲かせていた。
ざわり、ざわりと。
複雑な影を描いた老木の枝が、冷たい月の光に照らされて踊る。
村は捨てられて久しい。高度経済成長期に過疎化し、昭和の時代とともに忘れ去られた山奥の廃村は荒屋すらも崩れ落ち、もう故郷に帰る者もない。
それ故に古塚の由来を知る者はもういない。あちらこちらに欠けた石くれが転がっているが、それが碑なのか墓なのかすらも伝わっていない。
唯はらり、はらりと。
白い花弁が、幻のように儚い命を散らしていた。
† † †
「これ、なんて読むんだっけ? ひじょ……?」
「ヒメナギ、だろ。日女薙トンネル。ミツルもさあ、人気配信者になりたいなら、ちょっとは検索するってことを覚えたら?」
「だって面倒くさいし。簡単に稼ぎたいから、動画クリエーターを目指すんだろ?」
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