恋桜~あやかしの闇に囚われて~
「本当に行くのか。日女薙村への旧道は通行止めだし、日女薙トンネル自体も立入禁止のはずだけど」

「そのくらいしないと、新規参入組はさすがに注目されないっしょ。ヒメナキ……ヒメナギだっけ? 数ある都市伝説の中でも、マジでヤバいって評判らしいし。ゾワゾワチャンネルで言ってたぜ」

「結局、情報源はそこかよ」

「和真、おまえさぁ、ゾワゾワチャンネル、馬鹿にすんなよー」

「してないよ」

 どちらかと言うと、馬鹿にしているのは、二十二歳にもなって動画配信で一発当てたいと小学生の夢みたいなことを言っているミツルに対してだ。けれど、四月になったら冴えない中小企業に就職しなければならないという現実を目の前にして、ほんの少しだけミツルと同じ夢を見てみたいという気持ちも確かにあった。

「あ、あれがトンネルじゃねぇ!?」

「トンネルに入る前に、一度止まるぞ」

「そうだなー、入り口の撮影もしておこう」

 これまで快適にドライブしてきた県道から、車がようやくすれ違えるくらいの細い道が分岐していた。深い山の中の道は一応アスファルトが敷かれているものの、砂利や泥、落ち葉で埋まっており、かなり荒れている印象だ。
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